◆ 感想文

     研究会ではセルオートマトンの理論的枠組みと工学的な応用に関する講演が行われた。シミュレーションの行いやすさは、講演者が全員主張するところであったが、それとは裏腹に、理論的な正当性や証明を与えたり、枠組みの整備を行ったりすることは非常に難しい。例えば、超離散系では0と1しか現れない系では、加減乗除を安易に用いることはできず、既存の数学理論を適用する際に、強い制限を受ける。したがって、超離散系の枠組みを整備することは数学的に新たな分野を切り開くことを意味している。加速する計算機の発展は、今後もセルオートマトンを広範囲に流布するため、この研究会のような、相互補完的な役割を果たす機会は今後も必要とされるであろう。  さて、セルオートマトンに関する理論を紹介された講演についてまとめる。二人目の講演者である高橋先生は、超離散系の理論研究の先駆けである。研究会序盤でセルオートマトンや超離散系の基礎を学べたことは、初学者にとってありがたかった。実際、この後の講演で随所に基礎的な計算手法が使われていた。例えば、代数幾何学におけるトロピカル幾何を支える代数構造では、超離散系で用いられる「max」関数が必要である。この演算に関して、環、体(足し算に関する逆元が存在しないため、「半体」と呼ばれる)を定義できる。そのため、代数幾何の理論が適用可能なようだ。学生時代に学んだ代数学が、このような形でセルオートマトンに現れるとは思いも寄らなかった。数学の奥深さに改めて驚かされる。

     二日目には確率的なセルオートマトンに関する講演を聴けた。現象において確率的な要因が含まれることは自然である。特に遷移行列の振る舞いを調べることは重要と言える。確率論ではしばしば、構成要素が非常に多い場合が想定され、何らかの意味で適当な量を抽出することが期待される。笹本先生は、ランダム行列における第一固有値の性質を調べた。行列や作用素における基本的な情報は固有値に現れるが、ここでは正定値対称行列を考えていたため、最小の固有値、すなわち第一固有値が存在する。研究結果において、近距離相互作用で非常に良く知られた離散ラプラシアンでは決して現れない、「1/6」乗則が紹介された。詳細は割愛するが、この法則は通常の行列や作用素では現れず、数学的にも新しい現象と言える。

     冒頭に述べたように、理論的な枠組みの紹介から、工学的な応用まで幅広い研究会であった。セルオートマトンの背景にこのような数学が用いられていることに非常に驚いた。今後も議論が続き、理論的枠組みが構築され、広く応用されることを望む。

    池田幸太(明治大学特任講師)

     今回のシンポジウムではセルオートマトン(CA)の解析と応用について、多数の分野にわたる講師の先生方から直接お話を聴くことができた。私自身は物理分野出身であることから、これまでCAについて断片的に聴く機会はあったが、本シンポジウムのようにテーマをCAに絞り、かつ分野横断的な研究について知る機会はほとんどなかったため、今回のシンポジウムへの参加は貴重な経験となった。特に千葉大学の笹本智弘先生のお話では、可解な確率セルオートマトンとして、Asymmetric Simple Exclusion Process(ASEP)について、粒子の遷移確率が多重積分を用いて表すことができるということについて丁寧に説明をしていただけたため、知識のない初学者でも実際にASEPの難解な教科書への良い導入となったように思う。また Totally Asymmetric Simple Exclusion Process (TASEP)についても、まずは下準備としてランダム行列についての解説があり、その後にTASEPがランダム行列を用いて表現することができ、ランダム行列の解析からeigenvalue probability densityが得られ、この結果がTASEPにも使うことができるということを、簡単な例を交えて説明していただけた。また、ASEPの応用として、界面成長のモデルを考えることができ、界面の粗さのスケールについて、時間と空間に関する指数が解析的に求められるとの話も非常に刺激的であった。ASEPがただのコンピューターの中のおもちゃではなく、大変シンプルなモデルにあるにも関わらず現実の現象を表現することができるということを強く感じた。また、CAの応用についての横浜国立大学の白石俊彦先生のお話が大変興味深く印象に残っている。白石先生は主に3つの応用例に絞ってお話をされた。1つ目と2つ目はER流体とMR流体についてで、これらは多数の球状粒子を含んだ流体であり、ER流体は電場で、MR流体は磁場で流体の粘性を制御することができ、実際に車のダンパーなどにも応用ができるとのことであった。ER流体・MR流体において、内部の粒子の運動をCAを用いて表すことで、計算時間が大幅に短縮でき、それによって設計のためにより多くのバリエーションについて計算できるようになるという、まさに夢の技術のように感じた。特にMR流体については、0Paから100kPaまでの剪断応力の制御が可能とのことで、地震対策にも使うことができるのではないかとのことであった。また、3つ目の応用はCAによって自動生成したニューラルネットについての話で、CAによりシナプス間の結合の変化を表し、学習による結合の変化によって、目的とするものの最適な制御が可能となるとのことであった。今回の講演で出された例には宇宙空間で使う長尺アームの振動制御についてであり、実験のビデオで短時間で学習が完了し、適切な振動制御がされる様子を見ることができた。今回のシンポジウムでは基礎的な研究から応用まで、中身の濃い内容で多くの刺激を受けた。また、シンプルなモデルで如何に現象を表し、応用に結びつけ、社会へ還元させるかということにつても深く考えさせられた。

    占部千由(明治大学研究推進員)