◆ 感想文

     今回の若手シンポジウム「航空機の数理」に参加することで、普段はなかなか聞くことができない流体の数値解析の歴史から最新の話題まで幅広い話を聞くことができ、大変有意義な時間を持てたと感じている。特に初日の東北大学の大林茂先生の話は、航空機発展の歴史から最新の航空機設計の話まで分かりやすく明快な講演で、この分野に馴染みのない研究者にも航空機の設計の面白さが伝わるものであった。航空機設計において重要なこととして、翼抵抗と呼ばれる飛行時に翼の周りに生じる空気による抵抗が挙げられる。翼抵抗としては、粘性抵抗・圧力抵抗・造波抵抗・誘導抵抗があり、特に超音速での飛行の際には造波抵抗による燃費の低下が問題となる。また音の壁を超えることでソニックブームによる、騒音公害が深刻な問題となり、そのためコンコルドが超音速で飛行できる区域は大西洋・太平洋上のみに制限されているとのことである。これらの課題に取り組むために、まずは数値計算を使って航空機周辺の空気の流れを求める必要がある。まずは「流れ」の定式化をし、その後に方程式の離散化をする。そして空間についても離散化し、解を求める。この結果について解析するために、流れの可視化を行う。複数の航空機形状について、以上の手順を繰り返し、最適な形状についての知識を得る。この航空機の形状については、航空機の先頭部分のキャビンの形状や、翼の付け根の形、翼にあるフラップの出し入れの方法、さらには胴体のテール部分の形状が特に空気抵抗に影響を与える。ここまででも十分複雑な問題であると思われるが、航空機という人が乗って空を飛ぶという機械には安全設計や燃費のよいエンジンの設計など幾つかの要求される目的がある。例えば、エンジンの設計については、燃費のよいエンジンが空気抵抗の低い形状を持つとは限らない。つまり、エンジン自体の燃費は良くても、実際に空を飛ぶと高い空気抵抗を受けるために、トータルとして燃費が悪くなるということがあるということである。このように多くの目的をもつ問題に対して、多目的最適化ということが行われる。そのために多目的遺伝的アルゴリズムによって情報を得た上で、大域的な情報を得るために自己組織化マップを用いて解析を行う。空気抵抗についての解析から始まり、航空機全体としてみて最適な設計となるように多目的遺伝的アルゴリズムによる解析によって全体の情報を得るという、個々のステップそれぞれにおいても複雑かつ奥の深い研究であるようなものを、何層にも丁寧に解析に解析を重ねて航空機の設計が行われることを知った。この講演を聞いて、自らの研究についても、個々の研究を深めて繋げていくことでよりよいものにしていきたいと強く感じた。そして、勿論、今後航空機に乗るときに見られるであろう、翼の構造などの景色が非常に楽しみになっている。

    占部千由(明治大学研究推進員)

     本シンポジウムは航空機の数理ということで、航空機やロケットに係る流体数値計算を中心に講演が行われた。中でも二日目の金森氏の講演では、衝撃波を可視化するという空気力学における最も重要なテーマの一つについて講演されていた。

     衝撃波は地表面の騒音問題や、超音速飛行時に生じる造波抵抗・空力加熱など、実際、航空機を設計・運用する際に避けて通れない波動現象である。そのため、この衝撃波の影響を軽減するアイデアとして、主翼を複数枚にした複葉翼機と呼ばれる機体の設計・開発もなされているが、チョーク現象など克服しなければならない課題もいまだ残っている。これらの課題を克服するためにも、空気の流れの数値計算は不可欠であり、衝撃波を正確に捉えることが重要となる。

     金森氏の講演では、まず最初に一次元波動方程式において、非線形性が引き起こす特性曲線の交わりによって衝撃波が形成されるという原理について述べられ、二次元へ拡張した話を非線形Euler方程式から得られるリーマン不変量を用いて解説されていた。一次元や二次元の場合はそのリーマン面上の不変量の存在が知られているが、三次元の場合には、その不変量は明らかにされていない。そのため、三次元の衝撃波を取り扱うには不変量をそのまま用いる手法では困難となる。そこで、金森氏は流線の運動平面を考え、その断面における境界線をつかまえることで、二次元系で用いたノウハウを三次元系へと発展させ、三次元系の衝撃波検出の手法を開発されていた。この手法は、デルタ翼など具体的な対象物に対する粘性流れについても応用され、衝撃波の可視化に成功しておられた。金森氏の切り口である特性曲線法では、リーマン不変量がキーとなっている。この不変量はEuler方程式などの流体方程式に加えて、エネルギー保存則が成り立つ条件下で得られる不変量である。しかし、渋滞現象をはじめとして、散逸系のシステムにおいては、エネルギー保存則が成り立たないことが多い。そこで、このエネルギー保存が成り立たない場合においても、金森氏の手法が使えるのかを伺ったところ、エネルギー保存から得られる条件は不変量には大きく影響を及ぼさないようで、十分応用が可能であるとの返事をいただいた。これは、人の集団運動など、二次元の渋滞現象における集団の境界を密度の不連続面として捉えることで、衝撃波検出の方法が適用できることを意味する。これを用いることで、集団サイズの決定など、自身の研究テーマにも応用できる可能性が十分あり、大変有意義なご講演であった。

    友枝明保(明治大学研究推進員)