◆ 感想文

     細胞・腫瘍に関してモデル、解析、シミュレーションを通じた研究結果が発表された。2日目の講演者である若狭氏と星野氏はモデル方程式の数学的な解析結果を述べた。浸潤や腫瘍の現象に対する数学解析では、浸食する過程を記述する進行波解、浸食後の状態を表す定常解の性質を調べることが重要と言える。2名には、これら定常解や進行波解という共通したテーマがあり、解の構成方法を述べた。若狭氏は共同研究者が得た数値計算結果を紹介し、星野氏は数学的な解析手順を丁寧に説明しておられた。聴衆の理解に配慮しておられた。一方、三浦氏と中口氏はモデル方手式の提案とシミュレーション結果の紹介を行った。中口氏は発生過程における左右非対称性に関してモデル方程式を提案し、シミュレーション結果を紹介した。モデル方程式における空間的に非一様な項が、左右非対称性に本質的な影響を与えるという結論であった。三浦氏は反応拡散方程式系に現れる空間パターンを実際の現象に適用した。実際の複雑な現象を調べ、骨端が分化/ 脱分化することを、秩序変数で表し、外部場を表す拡散性のシグナル因子とカップルさせることで、頭蓋骨縫合線の空間パターンを再現した。ただし、現れる空間パターンが先端部で分裂を起こすという、実際の現象に無いものが現れる。これを抑えるため、拡散係数の不均一性を提案しておられた。他にも可能性があると思うが、実験などを通じてどのメカニズムが寄与するか特定の必要があるであろう。研究会後も議論などを重ねており、個人的には有益な研究会であった。

    池田幸太(明治大学特任講師)

     シンポジウム初日の感想を述べる。初日は3名の講師によって各1時間の講演が行われた。それぞれ、本研究の概観およびサーベイ、数学解析手法、シミュレーション手法の話題であった。最初の久保先生の講演では、当該分野において重要な Chaplain-Anderson(以下CAと略記)モデルを中心に、研究の包括的かつ入門的な解説が行われた。腫瘍成長現象を表すモデルには、CAモデルと同モデル以前に提案された Othmer-Stevens モデルがある。2つのモデルを対比しながら、モデルの導出、数学的結果、数値計算結果などが紹介された。多くの結果の中から精選された内容を、非専門家である私にも分かりやすく講演していただき、本シンポジウムにスムーズに入ることができた。 2つ目の加納先生による講演は、CAモデルの解析に有用な仮似変分不等式についてのものであった。仮似変分不等式を用いて、CA型モデルの解の存在についての数学的結果が示された。同不等式は、例えば線形の熱方程式にとりうる値が制限されることによって生じる非線形性を扱う際などに有用となる。この例は講演内において時間を割いて丁寧に解説された。また、鍵となる劣微分作用素の導入が分かりやすく、強い意味での微分ができない場合の解析手法の1つとして有用そうであると感じた人は多かったのではないかと思う。最後の講演のトピックはシミュレーション手法の1つである有限体積法であった。講演者である齊藤先生は数値解析の専門家であり、有限体積法の数値解析において重要な成果を挙げておられる。講演ではプログラミングの容易さや数値解の正当性について、有限要素法と対比しながら分かりやすく述べられ、ユーザーの視点を重視しつつ、数値解析を専門とする私にも有意義な内容であった。この講演を聴いて、有限体積法のプログラムを作ってみたいと考えた方は多かったのではないだろうか。そう思わせる魅力的な講演であった。明治大学GCOE拠点リーダーである三村先生によるシンポジウム開会時の挨拶において本研究が重要課題である旨が述べられた。講演を概観すると、その重要課題に取り組むための知識、すなわちモデリング、数学解析、シミュレーション手法、を初日だけでもバランスよく得ることができるように配慮されており、世話人である 若狭徹氏 の意向がよく分かる。モデリング、解析、シミュレーションは本研究において全て重要であるが、いずれも実行するのは容易ではないと思われる。その大きな研究課題に取り組む“わかさ”を感じた。

    野津裕史(明治大学研究推進員)