◆ 感想文

     守田氏の講演は感染症や複雑ネットワークについてのレビューから入る分かり易い講演であった。感染症伝搬についての理論研究は古くから行われ、感染症の種類によりSIS、SIR モデルなど幾つかのモデルが精力的に研究されている。特に近年感染経路が複雑なネットワーク構造を持つ場合の感染症伝搬モデルが注目を浴びている。感染症伝搬研究で重要な点の一つは感染症が全員に広まってしまうか、否かという点である。SISモデルではこの点について感染確率の転移点が存在する事が知られている。これまでの研究により、一様な感染経路を持つSISモデルの転移点は1であることが分かっている。また、スケールフリーネットワーク上(SFN)におけるSISモデルの転移点は0である事が知られている。これは SFNにおいては感染症伝搬を抑える事は出来ない事を示唆するものである。守田氏はSFN上でのSISモデルの感染過程を少し制限し、4つのモデルについて転移点について調べ、感染過程の制限のやり方により、転移点は0もしくは 1となる事が分かった。そこで、SFNのクラスタ係数、次数相関、平均パス長を変えネットワーク構造が転移点に与える影響について調べた。その結果、ネットワーク構造は転移点に大きな影響を与えない事が分かった。この結果はシステムサイズ無限大、定常解においてネットワーク構造がシステム全体の振る舞いに強い影響を与えていない事を示唆している。しかし、現実のシステムサイズは有限である。したがって、有限サイズの影響を測る必要がある。さらに、定常解とはあくまで無限大まで時間を掛けた場合についての結果である。したがって、定常解への収束が早いのか遅いのかというのは現実の感染症対策などを考えるにあたって極めて重要な問題である。感染症伝搬モデルにおいて有限サイズの効果や解の収束などは数値計算や解析計算を通して、現 象数理学が大きな貢献出来る問題だと感じる。

    木下修一(明治大学研究推進員)

     実像とモデリングという共通テーマの下に8名の先生が発表された。どの先生もモデリング研究の経験を積まれているか、または数学者との共同研究をされておられ、感染症をモデリングする意義について説得力ある説明をされていた。どの発表も感染症について初歩的な知識しかもっていない人間でも理解できるよう構成されており、非常に興味深かった。
     特に関心を持ったのは公共場における感染をモデリングされていた斎藤先生の発表である。
     感染症というと、自然科学としての医学を連想するが、斎藤先生の場合には現代社会における人々の生活や移動を視野に入れており、その問題意識が公共場における感染という発想に繋がっている。自分は社会学におけるモデリングの可能性を考えているため、斎藤先生の問題意識は強く共感できるものである。
     また全体を通していえることだが、どのモデリングも具体的な病気の感染を防ぐための施策と、その費用効果について予測しようと試みている。こうした発想は、十分なデータのある医学・疫学分野だからこそ可能なのだろうが、質的な調査に基づいたフィールドワークを検証する場面でも利用してみたいと思う。

    堀内史朗(明治大学研究推進員)