*Abstract*
◆ 大前比呂思(国立感染症研究所)

 エイズや結核と並ぶ3大感染症と称されるマラリアは、日本では輸入感染例が、年間推定100人程度を数えるだけだが、世界的には年間死亡者200万人、感染者5億人と推定され、大きな問題となっている。薬剤処理した蚊帳の使用を中心とした対策の進展もあって、ここ10年間で死亡者数・罹病者数は大きく減少したが、1970年代に制圧に成功した朝鮮半島で、再び三日熱マラリアの患者発生が報告されるなど、新たな問題にも直面している。一方、感染者2億人と推定される住血吸虫症も、世界的には公衆衛生上重要な感染症の一つだが、日本では1976年以降国内感染例の報告はない。発展途上国では、駆虫薬:プラジカンテルによる集団治療の普及により、1990年代大きく住血吸虫症対策が進展した。集団治療は、フィラリア症や土壌伝播蠕虫症など、他の寄生虫症の対策にも大きな効果をあげているが、動物によって媒介・伝播される寄生虫症の場合、ヒトに対する治療だけで制圧に導くのは難しい。病原体伝播の解析のみならず、感染症対策の立案・実施でも、数理モデルは利用されるが、マラリア・住血吸虫症対策の幾つかの事例から、その可能性を探りたい。